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中国の奥地・梅里雪山への旅 |
真冬の中国シャングリラ。川も凍てつく氷点下20度。 まさかここまで気温が下がるとは思っていませんでした。 ポカポカ温いシャングリラ・・・は夢のかなたに消え去ってしまいました。 ここから山を越えたらチベットですから、普通に考えたら想定できたはずですね。 温いのは省都・昆明くらいまででしょう。 特に辛かったのが夜です。昼間は比較的温くなるものの、夜の寒さは半端ではありません。 泊まったホテルは町一番の綺麗な建物でしたが、暖房が時間限定で、夜10時を過ぎると暖房設備は一切ストップ。 一日3時間しか暖房がききませんでした。 しかも、スムーズに温風が出るのは稀で、気持ち温いかな?と感じるくらいでした。 お湯なんて夢のまた夢です。 とにかくその僅かな時間に事を済ませて、あとは全ての服を着こんで(靴下も)布団の中に潜り込みます。 しかし、せんべい布団では何枚重ねてもなかなか温もりません。 重くて息が苦しく、隙間から寒風が入るとガタガタと震えてきます。 そんなとき、トイレに行きたくなったら最悪です。 室内でも氷点下5度はいっていましたから、相当な勇気が必要でした。 一度出てしまうと再び布団が温くなるのに時間がかかるし・・・ 地元の人々はこの寒さは慣れているようで、毛布一枚でロビーで寝ていたりと、平然としています。 このような様を見ていると人間の体というのはこんな環境でも順応してしまうのかと、ちょっと驚きました。 翌朝、元人民解放軍兵士の運転する車で、一路梅里雪山目指して出発しました。 まさに待望の朝でした。 起きて身体を動かしているほうが寒さもしのげるというもの。 これからさらに山の深みに入っていく不安がないわけではありませんでしたが (いたって軽装であったということもあります。)、 じっとしていられないくらい寒いのです。 町を離れると、植物のない乾燥した冷え切った光景が広がりました。 川はもちろん、山の谷から流れ出る水流も道路上でそのまま凍りつき、時間が止まったかのようです。 瑞々しいという言葉はここには存在しません。 でも、こんな風景が大好きだったりします。懐かしさすら覚えてしまう心地よさがあります。 そんなときふと見えた松賛林寺。大規模なチベット寺院ですが、人気のない風景の中で佇む建物の中、 今まさに僧侶たちが修行をしていることを思うと、人間の営みの偉大さを感じるのです。 |
トイレ休息の時、道路から谷を見上げると、濁流がそのまま凍りついたかのような氷の芸術がありました。 足下では太陽の光を受けて溶けだした水がちょろちょろと流れていましたが、日が暮れると再び凍りつくのでしょう。 毎日、そんなことの繰り返し。それが幾重も重なり合って、自然の芸術が作り上げられるのです。 |
中田の街を出発し、梅里雪山を目指す旅。 足を進めるにつれ緑は消え、山々が峻険になっていきます。 そんな中でも道は引かれており、はるか目的地付近まで車で行くことができます。 それはまさに奇跡的。 もちろん舗装されていないダートの道ですが、直角に近い斜面によくぞ造成したものです。 対面の道を見たときに、思わず息を呑んでしまいました。 |
このあたりはチベット族が多いエリアなのですが、やはり山肌に貼りつくようにチベットのお寺がありました。 運転手が寄ってみる?と言うので、ちょっとお邪魔させていただくことにしました。 僧侶に鍵を開けてもらい、中に入ると荘厳なるチベット仏教壁画が描かれていました。 この彩色・繊細さは見事。こんな小さなお寺にも立派な壁画があるとは・・・ その当時は壁画の意味など分かりませんでしたが、今見ると少しは分かります。 一番奥の絵は有名な六道輪廻図。チベット仏教のメインテーマである輪廻転生を現しています。 イスラム教などとは異なり、イメージを目に見えるものに現して修行に利用するというのは仏教の大きな特徴ですね。 こうしてお寺の中にいると、とても落ち着きます。いつまでものんびり座っていたいものですが、悪路ですので先を急がなければなりません。 お寺の中はガラーンとしています。僧侶たちはどこに行ったのでしょうか? |
運転手が車を止めました。トイレ休息かな?と思ったら、車を降りて「こちらの方まで来てごらん」と言いました。 草が茂った高台に昇ると、今まで走ってきた道が眼下に見えました。 広大な光景です。 運転手によると、ここは有名な撮影スポットなのだとか。なるほど、オーム型の川の流れがおもしろいですね。 しかも、この川はあの大河・長江の上流の姿なのです。随分川幅が狭いものですね。 ところで、わが運転手は相当なカメラマニアで、大型カメラを持ってチベットはラサまで車で旅をしたのだとか。 よって、「写真好きの人のハートはつかんでいる」そうです。 確かになかなかツボを得ているなと思いますが、時々個人的好みでマニアックな場所で停止するので嬉しくもあり、つまならい場所の場合は対応に困ったりします。 「チベットに行った時は、あまりの美しさにフィルムを250本消費してしまった・・・」と現像代に嘆いていました。 「道中はここより綺麗だった?」 「もちろん」 ここから外国人は不法侵入になってしまうので(現在は不明)、羨ましい話ですね。 |
悪路でありながらも、意外に車の往来が激しいエリアでした。 やはりランドクルーザー等が主流、もうもうと砂埃をまきちらし走り去っていきます。 こちらは、純中国製の「サンタナ」(赤いセダン)。かなりポンコツです。 隔絶の差を感じてしまいます。 しかし、わが元人民解放軍兵士の運転手は、そんなランドクルーザーにも一度も抜かれることはありませんでした。 まるでラリーでもしているかのように、横滑りしながらカーブを曲がり、ランドクルーザー群を抜き去って行きました。 |
いよいよチベットらしくなってきました。徳欽という町へ向かう途中に見えた雪山です。 標高は5500メートル弱ですが、あまり高さは感じられません。 尾根も続いていることですし、山の直下くらいまでなら容易に行けそうな気がします。 となると、今いる場所も標高3000メートルは超えているのでしょうか? その割に、空気の薄さは全く感じられません。 あの雪山、無名峰と思っていましたが、運転手が「バーマー山、バーマー山」としきりに言っています。 「巴馬?」「白馬?」 後で調べると「白茫(パイマン)雪山」と呼ぶようですね。無名峰どころか、観光名所になるくらいの有名な山でした。 雲南地方の方言は北京あたりと比べると、柔らかいというか優しく感じられます。 声調も異なっていて、聞き取りにくいです。そして彼らは一貫して方言を話してきます・・・ 北京の言葉は官僚的で嫌い、と言う方もおられました。 でも私は北京の人でも見つけて、翻訳してもらわないと困ってしまいます。 |
途中、ちょっと小汚い食堂で休息することにしました。 チベット族のお爺さんとおばあさんが出迎えれくれました。 おばあさんは何やらホットケーキのようなものをフライパンで作り始め、お爺さんは大きな木筒の中に棒を突っ込んで押したり引いたりしています。 筒の中から出てきたのは、チベット族の日常的な飲み物、あのしょっぱいミルクティーです。 飲んでも飲んでも、継ぎ足してくれ、飲まないと「飲め、飲め」と勧めくれるのがチベット流。 だんだんお腹がタポタポになってきます。 高山病には水分を多く摂らないとだめなんだよ、って。 そう、もう標高4000メートル近いのですよね。 でも、何の自覚症状もありません。 チベット本土に行った時も全然平気でしたから、こんなものなのでしょう。 ふと、窓の外を見るとタルチョーがはためいていました。 高山のちょっと贅沢なティータイム・・・ |
「黄色、紅色、緑色・・・」 山々に鉱物臭が漂う頃になると、峠が近づいている証拠です。 「もう標高4千メートルは超えているかな〜?」と運転手。 空気の薄さは全く感じられなかったので、きっと誇張しているのだと思いましたが、この風景を見たら間違いなさそうです。 峠に着くと、チベットのタルチョーが沢山はためいていました。 タルチョーとはチベットの祈祷旗で、旅の安全祈願を始め、仏教的な様々な祈りが込められています。 このような峠やお寺、絶景ポイントなど要所要所に必ず見られるチベットの日常的風景です。 すると、同行したお爺さんが、おもむろにお祈りを捧げます。しかも、かなり敬虔な様子なのです。 「あれ、なんでだろ?」 漢民族のお爺さんがチベット仏教を信仰する姿にちょっとびっくり・・・ お爺さんに聞くと、チベット仏教は漢民族の間にもかなり普及しているのだとか。 確かに雲南省ではチベット族と漢民族は親密に交流している印象を受けましたが、なるほど、そういうことだったのですね。 後で中国人僧侶から聞いた話ですが、中国本土における非チベット人のチベット仏教信者数は、今や2千万人を超えると言われています。 数だけでいえば日本の某学会を上回る勢力ですね。 |
山の中を走り続けて8時間、やがて空が薄暗くなってきました。 ここは雲南省の奥地。街灯などあるわけもなく、夜間の運転は危険です。谷底にまっさかさま・・・ということも。 そこで、途中の宿泊所で泊まることにしました。 殺風景な宿でありながらも、食堂等もあり、運転手やお爺さんと鍋をつつきました。 その後は炭火を囲みながら暖を取りつつ談笑。とはいいつつも雲南方言はほとんど聞き取れませんが・・・ 空を見上げると、すっかり暗くなっていて、星空が広がっています。 静かです。ぼそぼそという人々の話声がこの暗闇の中で響き渡り、もうここにいる以外何もできないという諦めの境地にも似た妙な安堵感がありました。 耳をすましていると、川の流れる音も聞こえてきます。 宿の裏まで見に行きましたが、真っ暗で何も見えず・・・ 「一体ここはどんなところなのだろう?」とイメージを膨らませながら眠りに落ちました。 そして朝・・・ もう一度、昨夜川を見に行った同じ場所に出てみると、朝日を受けた雪山がそびえ立っているのが見えました。 「こんなところだったのか!」 清々しい山の空気を吸いながら、雲南省奥地の谷合にいることを実感しました。 |
目的地・梅里雪山までの道はまだ続きます。 やがて、車ではこれ以上進めなくなり、登山道を行かなければならなくなりました。 「ここからは馬だよ」と運転手。 「馬ですか!」 馬はお尻が痛くなるので敬遠したいところです。 しかし、ここでは馬で編隊を組んで山を歩くのが一般的だと言うので、半ば強制的に馬に乗せられました。 さすがに視界が高いですが、この高さで登山道はちょっと怖いですね。 木の枝に頭をぶつけそうになるのはまだ良いにしても、振り落とされでもしたら大怪我しそうです。 さらに馬という動物は結構気ままで、途中で休んだり、ウンコしたり、草を食みはじめたりとなかなか前に進みません。 馬使いのおじさんがその都度修正してくれますが、そこはやはり生き物ですね。 周囲は日本の低山地に良く似た木々の生い茂る気持ちの良い登山道。 小川がちょろちょろと流れています。 これはもう馬なんて乗らずに歩きたい!という衝動に駆られました そこで、馬使いのおじさんに「自分も歩きたい」と馬を下ろさせてもらって、しばらく歩くことに。 しかし、「あれ、なんだか変だぞ?」 すぐに息が切れてしまいました。「そんなはずでは・・・」 そうでした、あまりにも瑞々しい光景に、ここが高山であることを忘れていました。 高山であるがゆえに、馬に乗るのです。 再び馬に乗って到達した梅里雪山と下に広がる大氷河。 これだけ綺麗に見える日は滅多にないのだとか。 「1週間滞在しても見られない人は見られない。たった数時間でも見られる人は見られる。」 本当かな? 自分の足元から繋がるその白い雪山は、その巨大さ・高さにも関わらず思わず登りたくなってしまいました。 ところが、 「この山、まだ誰も登頂した人はいないのです。以前、試みた人々がいましたが、彼らは事故で命を失いました。日本人ですよ!まだ見つかっていない遺体もあります・・・」と運転手。 氷河をじっくり見ていると、一つ一つの氷塊の形状は実に複雑。 やはりもうこれ以上は進むことはできなさそうです。 |
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